数学の基礎力を養ふのにおすすめの書物の紹介
名城大学の理工学部の学生のみなさんに向けて,
私の知る範囲で, 「線形代数学」, 「微分積分学」, 「代数学」, 「幾何学」のおすすめの本を挙げておきます.
一般的にいつて, もしも「一冊づつ挙げよ」といはれたなら, 下線を引いたものを推薦します.
- 線形代数学
- 三宅 敏恒 著 :「入門線形代数」, 培風館
- 非常に明晰に記述されてゐます.
最初に, 行列の積の結合律 (AB)C=A(BC) があまりに簡潔に述べてあるのみなのが玉に瑕ですが, 初学者にとつて非常にわかりやすい本です.
- 有馬 哲 著 : 「線形代数学入門」, 東京図書
- 佐武 一郎 著 :「線型代数学」, 裳華房
- 微分積分学
- 岡安, 吉野, 高橋, 武元 共著 :「微分積分学入門」, 裳華房
- 三宅 敏恒 著 :「入門微分積分」, 培風館
- 寺澤 寛一 著 :「自然科学者のための数学概論」, 岩波書店
- Whittaker-Watson 著 : Modern Analysis, Cambridge University Press
- 高木 貞治 著 :「解析概論」, 岩波書店
- 代数学 ( 群, 環, 体について学ぶのに好適な本 )
- 永尾 汎 著 :「代数学」新数学講座 4, 朝倉書店
- 彌永, 有馬, 浅枝 共著 : 「詳解 代数入門」, 東京図書
- 幾何学 ( 特に, 微分形式の有用さを知るのに好適な本 )
- マイケル・スピヴァック 著 : 「多変数解析学」, 東京図書
( 原著 : Michael Spivak : Calculus on manifolds --- a modern approach to classical theorems of advanced calculus --- )
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前書きには次の様に記されてゐる :
《 読者は恐らく, 現代的な Stokes の定理が, それから導かれる古典的な諸定理(Green の定理, Gauss の発散定理など)と同じ位難しいと思ふだらう.
ところが, これはもうひとつの別の形の Stokes の定理からの非常に単純な帰結なのである;
非常に抽象的なその形は第 4 章の最後にある主結果 (定理 4-13) である.
それゆゑ, そこに至るまでの困難さがその定理の背後に隠れてしまつてゐると考へるのが当然であらう.
ところが, この定理の証明は, 数学者の感覚だと, 全く自明なもの --- 単なる計算 ---- に他ならない.
一方, この自明な定理の記述を, 第 4 章にあるとても多くの困難な定義を抜きにして理解することは不可能である.
これらの定理が簡単なのに定義が難しいのにはもつともな理由がある.
Stokes の定理の発展によつて暴かれたことは, たつたひとつの単純な原理はいくつもの
難しい諸定理の仮面として隠されてしまふことがあるといふことだ;
多くの定理の証明はこの仮面を剥ぐ作業に他ならない.
一方, (現代的な) 定義は, 旧来の概念を精密なものに置き替へることと,
美しい証明の道具を与へることいふ二つの目的を合はせ持つてゐる. … 》
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また, 第 4 章の最後のところには次の様に記されてゐる :
《 Stokes の定理は, 十分に練られ発達した多くの重要な定理と同じ様に, 次の 3 つの重要な性質を合せ持つ:
1. それは自明なことである.
2. その定理に現れる述語が厳密に定義されたが故に自明なことになつた.
3. それから重大な結果が導かれる. 》